大手企業の安定を捨てて、直感に従い"未経験の道"へ。思わぬ場所で見つけた自分らしい働き方
満たされない日々の中で感じていた漠然とした停滞感
私は以前、世間一般に「安定」と呼ばれる大手企業に勤めていました。入社から10年以上が経ち、それなりの役職も与えられ、給与面でも恵まれていました。周りからは「順風満帆だね」と言われることも少なくありませんでした。
しかし、私の心の中には常に、拭いきれない空虚感が横たわっていました。仕事はルーティンワークが多く、刺激も発見もありません。人間関係に大きな問題があったわけではありませんが、深い繋がりを感じることもありませんでした。毎朝決まった時間に満員電車に揺られ、定時までPCに向かい、夜は自宅と会社の往復。この繰り返しの日々が、本当に自分の望む人生なのだろうかと、漠然とした不安を感じ始めていたのです。
何かを変えたい、でも何をどう変えればいいのか分からない。新しい趣味を探したり、自己啓発本を読んだりもしましたが、どれも一時的な気休めに過ぎず、根本的な解決には至りませんでした。心の奥底で、このままではいけないという強い思いがあるのに、具体的な行動に移す勇気が出ずに、時間だけが過ぎていくことに焦りを感じていました。
電車の中、偶然の出会いがもたらした「直感」
そんなある日、いつものように通勤電車に乗り、スマートフォンを眺めていました。ふと顔を上げると、網棚に置かれたフリーペーパーが目に入りました。普段なら手に取ることのない地方の観光情報誌です。なぜかその日は、吸い寄せられるようにその一冊を手に取りました。
ページをめくっていくと、隅の方に小さな記事が載っていました。地方の山奥にある小さなガラス工房で、手作りの吹きガラス体験ができるというものでした。その写真を見た瞬間、私の心に「ここに行かなければならない」という強い衝動が走ったのです。それは理屈ではありませんでした。ただ、その場所が私を呼んでいるような、そんな感覚でした。
それまで芸術やものづくりに特別な興味があったわけではありません。それでも、その工房の静かな佇まいと、光を透過するガラスの美しさに、言いようのない魅力を感じました。この直感が、私の人生を大きく動かすきっかけになるとは、当時の私は知る由もありませんでした。
直感と安定の狭間で揺れる葛藤、そして決断
数週間後、私は有給休暇を取り、直感に従ってそのガラス工房を訪れていました。初めての吹きガラス体験は、想像以上に熱く、難しく、そして何よりも夢中になれる時間でした。無心でガラスに向き合っていると、今まで感じていた心の空虚感が消え去り、澄み渡っていくのを感じました。工房の職人さんたちが、本当に楽しそうに、そして誇りを持って仕事に取り組んでいる姿も、私の目には眩しく映りました。
東京に戻り、再び日常に戻ったとき、あの工房での体験が忘れられませんでした。会社での仕事中も、ふとした瞬間にあのガラスの輝きや、職人さんたちの笑顔が頭をよぎるようになりました。そして、ある日、確信に近い形で「ここで働きたい」という直感が私の中に芽生えたのです。
大手企業の安定した地位を捨て、未経験の分野に飛び込むという考えは、周囲からは理解されがたいものでした。両親からは「もったいない」「頭がおかしくなったのか」と反対され、同僚たちも驚きを隠せない様子でした。私自身も、安定を失うことへの不安や、新しい環境でやっていけるのかという恐れが押し寄せ、何度も迷いました。しかし、心の奥底で「このままでは後悔する」という直感が、不安を上回るほどに強く響いていました。最終的には、心の声に従うことを決意し、私は会社に退職届を提出しました。
未経験の道で経験した困難と、広がる可能性
退職後、私はあのガラス工房に連絡を取り、弟子入りを志願しました。未経験の私を受け入れてくれるのかという不安もありましたが、体験時の熱意を覚えていてくださり、まずはアルバイトとして働くことを許していただきました。
大手企業時代とは全く異なる生活が始まりました。給与は大幅に減り、住む場所も引越しました。慣れない工房での作業は体力的に厳しく、火傷や怪我をすることもありました。最初の頃は失敗ばかりで、美しいガラス作品を作るどころか、形にすることさえ難しい日々でした。しかし、不思議と辛いと感じることはありませんでした。むしろ、一つ一つの失敗から学び、少しずつ上達していく自分に喜びを感じる毎日でした。
工房の職人さんたちは、技術指導だけでなく、ものづくりに対する情熱や、お客様への思いを教えてくれました。彼らとの温かい交流は、都会での希薄な人間関係に疲弊していた私にとって、大きな癒しとなりました。毎日、自分の手で作品を作り上げ、それがお客様の笑顔に繋がることに、これまでにない充実感とやりがいを感じるようになりました。
直感に従った先にあった、自分らしい人生の好転
直感に従い、安定した大手企業を辞めて未経験のガラス職人の道を選んだことは、私の人生を大きく好転させました。経済的な豊かさは以前ほどではありませんが、心の充足感と精神的な豊かさは、あの頃とは比較にならないほど高まりました。
仕事は単なる「義務」ではなく、「自己表現の場」となりました。自分の手で生み出した作品が、誰かの手に渡り、喜んでもらえることに、大きな生きがいを感じています。以前は漠然とした不安に囚われていましたが、今は未来への希望と、自分らしい道を歩んでいるという確信があります。ストレスが減り、心身ともに健康になったことも、大きな変化です。
この経験を通じて、私は直感とは、決して非現実的なものではなく、自分自身の奥底にある本当の願いや、進むべき道を教えてくれる大切な羅針盤なのだと学びました。論理や常識に囚われず、心の声に耳を傾け、そして小さな一歩からでも勇気を出して行動すること。それが、人生をより豊かにする鍵となることを、身をもって知ることができました。
まとめ
人生に停滞感を感じ、漠然とした変化を望んでいながらも、なかなか行動に移せないでいる方は少なくないでしょう。私自身もそうでした。しかし、あの時、心に芽生えた直感に従い、勇気を出して一歩を踏み出したことで、想像もしなかった新しい世界が広がりました。
直感は、時に非論理的で、不安を伴うかもしれません。しかし、その奥には、あなたが本当に求める未来が隠されている可能性があります。立ち止まってしまう時こそ、心の声に静かに耳を傾けてみてください。そして、もし何か強く惹かれるものがあれば、完璧な準備ができていなくても、小さな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、あなたの人生を好転させる大きなきっかけになるかもしれません。